2026年の本屋大賞を受賞した、朝井リョウさんの最新話題作『イン・ザ・メガチャーチ』。今回は、AmazonのAudibleで視聴しました。
現代のエンターテインメント市場で巨大な力を持つ「ファンダム経済」や「推し活」の光と影。そこに巧妙に潜む「物語」の危うさを、圧倒的な解像度で描き出した作品です。押し付けがましさが一切なく、静かな問いを投げかけてくる一冊でした。
「イン・ザ・メガチャーチ」作品データ
作家: 朝井リョウ
発売日: 2025年9月5日(日経BP/日本経済新聞出版)
受賞歴: 2026年第23回本屋大賞 大賞、第9回未来屋小説大賞、第2回あの本、読みました?大賞
初出: 新聞連載
構成・ボリューム: 全448ページ(単行本)/3つの視点が交差する群像劇
キーワード: ファンダム経済、推し活、偶像崇拝、情操コントロール、SNS、集団心理
印象的な地域・場所: ライブ会場、推し活のコミュニティ(界隈)、ネット空間
おすすめの読者:
・アイドルや俳優の「推し活」をしている人、過去にしていた人
・SNSのトレンドや、ネット上の「バズ」が起きる仕組みに関心がある人
・現代特有の孤独感や生きづらさを、どう解消すべきか模索している人
電子書籍サービス: Kindleをはじめとする各種主要電子書籍ストアで配信中
オーディオブックサービス: Audible(再生時間:15時間43分)(ナレーター 岩崎了、大森ゆき 巧みな演じ分けにより、まるで上質な群像劇映画を耳だけで鑑賞しているような没入感を味わえます )
簡単なあらすじ(ネタバレなし)
沈みゆく列島で、“界隈”だけが異常な熱気で沸騰している――。
物語は、世代も立場も異なる3人の視点から交互に描かれます。
- アイドルグループ「Bloome」の運営に参画し、ファンの熱狂を裏から緻密にコントロールしようとする中年男性。
- 内向的で繊細な気質ゆえに日々の心労を抱え、救いを求めるようにアイドルへとのめり込んでいく大学生。
- 仲間とともに舞台俳優を純粋に全力で応援していたが、ある報道をきっかけに自らの置かれた状況の異変に気づく女性。
「仕掛ける側」「のめり込む側」「かつて踊らされていた側」。それぞれの視点が重なり合うとき、私たちが普段何気なく消費している「物語」の功罪が、静かに暴かれていきます。
「イン・ザ・メガチャーチ」を聴いて
本作に対する私個人のおすすめ度は、星4つの「B(面白い)」です。
読後に強く感じたのは、「推し活」というポップな現象を借りながらも、本作が暴いているのは「人はなぜ、自分以外の何かが作った『物語』に人生を委ねてしまうのか」という、普遍的な人間の脆さであるという点です。
作中で描かれるファンダム(ファンコミュニティ)の熱狂やSNSの空気感は、驚くほどリアル。運営側がいかにして大衆の心理を誘導し、熱狂を維持させているかという裏側は、マーケティングや現代社会の縮図としても非常に興味深く聴くことができました。特定の誰かを批判するのではなく、誰もが当事者になり得るシステムそのものの危うさが、淡々とスマートに描かれています。
今回はAudibleでの視聴でしたが、大正解でした。ナレーターの岩崎了さんと大森ゆきさんによる朗読が秀逸で、登場人物たちの細かな自意識や、ネット特有の軽快ながらもどこか不穏なテキストのトーンが、耳からダイレクトに脳内へ流れ込んできます。文字で追うよりも、まるで現代社会の雑音(ノイズ)そのものを聴いているかのような、不思議な没入感を得られました。
過剰な演出や説教くささはなく、読者に解釈を委ねるバランス感覚が絶妙です。Z世代のリアルな心理描写を得意とする朝井リョウさんですが、彼が描く問いの深さは、世代を問わずすべての現代人に深く刺さるはず。一度この「メガチャーチ(巨大な教会)」のような熱狂の渦に、耳から飛び込んでみてはいかがでしょうか。

